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明くる日のアクリル

「あれ、ここの店員、みんな顎を骨折して治療中なのかな?」

と、一瞬思った。近所の、チェーンの立ち食いうどん屋さん。店員が皆、顎を、プラスチック状の何かが覆っている。よく見ると、顎から透明のアクリル板? が伸びて、口元を覆っている。

これは……矯正器具ではなく、マスクのようだ。口のまわりにぴっちり付く布のマスクではなく。口の下の部分からプラスチックの支えが伸びて、口からほんの一定距離を保ち、アクリル板が遮っている。

何故? 普通のマスクじゃ駄目なのかしら。普通のマスクだと、顔面を覆ってしまうから、接客上よろしくないという考えで、透明なアクリル板にしたのかな? 確かに、表情はよく見えるが、すぐ顎のプラスチックが目について、とても奇妙。

或いは、口から距離が保たれることで(マスク本来の役割を一部果たさないような気がするけれど)息苦しくならないためにあるんだろうか。僕も、マスクすると息苦しさに耐え切れなくなるので、楽そう、とは思ったが。

なんとなく、タクシー運転座席に付くようになったアクリルの防護壁を思い出した。透明でも、存在感がすごいというか。それを存在させる、状況の凶々しさか。

または、近所のローソンで最近あった「からあげくん増量中」のベストも思い出した。「感情労働」という言葉があったっけ。作業だけでなく、笑顔とか、それも労働に含まれて大変だなあ、という話。これら更に一歩踏み込んで、奇妙な格好をさせられる感じ。衛生上の観点からやっているのだろうけれど、それだけに、もう止められないような。

あれも思い出した。くら寿司。皿にバーコードつけて、鮮度管理する、とか潔癖な発明をしていたけれど、ついに、皿をとるのにも、何か最近加わった、あれ。ベルトコンベアを流れる時に、外気に触れぬよう、皿を囲むケース、皿を取るときも、それに触れずに済むんだっけか、これも奇妙な。

ベタな未来人のイメージに、顔の上部分を覆うグラスのモニター、みたいなのがあるけれど、ここでは顔の下半分を覆っているという。実際の未来社会を覆うのは、割れて危ないグラスでなく、アクリルでした。