電話をする時は普通、顔に沿うようにして受話器を持つ。イヤフォン部は耳に、マイク部は口元に、それぞれ当てられる。そうなるよう、受話器は湾曲した形をしている。
でも、電話のアイコンたるそうした受話器は、固定電話に限る。現在主流のスマートフォンは、ただの小さな板状。とはいえ、同じように耳に当て、上手く口元の音を拾う。まあこれも古いスタイルか。街中ではみんなもう手ぶらで喋っている。通話の性質上、スピーカーは耳元で囁くのみだが、マイクの方は離れても声を上手く拾えるみたいで、端から見ると本当に独り言のように見える。
さて先日、中華人民共和国広東省広州市天河区東圃へ宿泊した時のこと。うっかり予約時に宿泊日を間違えたため、ホテルのフロントと長々遣り取りすることとなった。といっても、僕は中国語を喋れないので、端でそれを眺めるばかり。
フロントの方がスマートフォンで何処かに問い合わせている。その所作を見て「ふむ」と思った。これは……この人だけの癖なのか。しかしその後、同じ所作を繰り返し見た。日本でも、若い人はそうするんだっけ。いや、中国の? でも上海や青島では見なかった気がする。華南方面特有の、か?
別に大したことではないけれど。その所作とは、通話の際、スマートフォンを、前述の通り顔に当てるのでなく、顔から垂直になるよう、真っ直ぐ横にして、口元に当てる、こと。写真でもあれば話は早いが無い。音声もスピーカーになってて、耳に当てない。マイクのみ当てる。口から伸びるよう真っ直ぐもって。
この所作が、なんか良いな、と思いました。理由ないけど。何となく、中国っぽいような。気のせいか。その後、逆パターンも見た。美術館のスタッフが、今度は耳に当てる。その時も、スピーカー部を耳にあて、それを身体から垂直になるよう構える。必然性がよくわからない。これだと、口元からマイクが余計に離れる。合理的でない。自然な所作でなく、彼らも「良い」と思っているから、そうしているのだろうか。
次はこちらの写真をご覧ください。所は越秀区北京路にある大仏古寺。観光名所でもありますが、お寺なので先祖を祀る日常の場でもあります。
この線香の構え方、もなんか良い感じですね。垂直の所作。日本でもこうでしたっけ。
さて、次は広場舞。日本の盆踊りに共通するところ多しですが、違いとして、日本は輪踊り、中国は正面踊り(がそれぞれ主流)という点があります。
舞台発表でなく日常的な総踊りであるなら、振付やお互いの動きを見れる「輪踊り」の方が優れている、と思う。何故、中国人は輪で踊らないのだろう。最初は、人数と場所か、と思った。如何な中国でも、街中で大人数でやるからにはそんなに広がれない。参加人数を多くするには必然、整然と並ぶことになる、と。
しかし、踊るうちに、ここにも垂直の所作が関係しているかもしれない、と思い至った。
広場舞は種類多数のため一概には言えないが、正面ばかりでなく、向きを変える。この「向き変更」は、普通に振付の一端として行われたり、間奏部分にだけやってきたり、という印象だが、曲によっては、正面の踊りと同じように行われる。つまり、開始時点が正面なだけで、等間隔で向き変更が行われる。面白いのは、多くは、例えば90度づつ前、左、後、右……へと変わるのだが、振付によっては270度づつ変わり、動きは左回りながら向きは前、右、後、左……と右回りなるようなものもある。
この等間隔系振付を踊ると、広場舞は、正面踊りというわけでなく「四面踊り」と看做せる(部分もある)。強引に故事つければ、日本は和を尊ぶ輪踊り、中国は麻雀にも通じる四面踊り、という次第。これも垂直の所作の一種ではないか。
(舞台演出などで)何かしら動き、振る舞いを考える時、そこを意識すると、簡単なのにちょっと良い動き、が出来るかもしれませんね。