アーカイブ

食は九里を超える

もし突然「キュウリ好き?」って問われたら……多分、僕は「いや、そんなに」と答えるだろう。いや、別に嫌いじゃないし、大人だから食べられるけど。

キュウリ……って言われて、最初に連想したのは、輪切りにして、タコとあわせて酢漬けにしたもの。あれ、あんまり好きじゃない。そして、河童巻き。もし百円均一の回転寿司に行ったとして、わざわざ河童巻きを注文するのは、すごおく勿体ない、あり得ない、そんなわけない。次に想像したのは「となりのトトロ」田舎暮らしを描写する序盤のワンシーン。畑でもぎたて、川で冷やしたて、のキュウリを、かじる、の。あんな新鮮なキュウリを食べたこと無い、あれは美味しいんだろう、ってことはわかる。けれど……あれは「田舎ではキュウリすら美味しいよ!」という描写で、それは、通常のキュウリの、まあまあさ、を逆に表現しているのではないか。それにはすごい共感する。あのキュウリは美味かろう、でもそれは、キュウリ普通めちゃ美味いわけじゃない、ことを意味する。

お子様舌の僕としては、別にキュウリが食べられない、苦手じゃないだけで上等。まあそんなものよね、キュウリだし。

と思っていた。

しかし、ある時、ある瞬間。「あれ、僕、めちゃくちゃキュウリ好きだ、もともと」と思いました。

居酒屋で出てくる、叩いたキュウリ。サラダに含まれる、斜めに切ったキュウリ。素麺や冷麺、にあわせる細切りのキュウリ。大根や人参と一緒にスティック状になって味噌につけるキュウリ。白菜キムチより、大根キムチが好き、そしてもっと好きなのはキュウリのキムチ、オイキムチ!

それら「いや、そんなに」どころか「好き」どころか「大好き!」。なんとまあ……盲点だったよ。幸せの青い鳥は、緑のキュウリは、こんなところに。でも、それにしても! 昔からキュウリ好きだったはずなのに、何故、今迄(わりと最近まで)自分をとても「キュウリ好き」とは思えなかったのだろう?

これほどまでに「切り方」によって感触がかわる食材があろうか。輪切り、でさえなければ、僕にとってキュウリは素晴らしい。やっぱ食感は大切。

(しょうもない話シリーズにつき、オチや文体による特色はありません。実はキュウリ好きやった、ということで、これにて筆を擱きます)